創薬インフォマティクス

一般に創薬研究は,病気の原因となるタンパク質に結合するリード化合物(主に低分子化合物)を探索・創出するステップからスタートし,このスクリーニングに適合した化合物のみが医薬品承認へ向けた臨床研究に進みます.両ステップ共に莫大な時間とコストを必要とすることが創薬研究の大きな障害となっています.近年,スクリーニングの最初のステップを計算機で実行することによって効率化を図るバーチャルスクリーニングが盛んに研究されています.特に,タンパク質とリード化合物の結合を機械学習で予測する手法が大きな注目を集めています.深層学習を適用した手法の開発もすでに進められており,我々のグループにおいても優れた予測精度を示しています (Hirohara et al. 2018). しかしながら,ある特定のタンパク質と結合する化合物をゼロから計算機上で創出する研究は,これまでのところあまり進んでいません.以上のような背景を踏まえ,既知化合物との結合予測によるリード化合物探索手法のみならず,適合する可能性が高い未知化合物を深層生成モデルによって自動的に生成・創出する手法の開発を目指しています.

機能を持つRNAの多くはその二次構造が機能に重要な役割を果たしており,何らかの原因によって二次構造が変化するとその機能も変化することが知られています.しかしながら,他の生体分子と比べると,これまでRNAは創薬分野で注目されることが少なかったと言えます.転写されるRNAのうち,機能がわかっているものがあまりに少なく,創薬ターゲットとしては手が出しづらかったことが原因だと思われます.そこで,ナノポアシークエンサーによるRNA二次構造決定法を利用し,細胞に低分子化合物を添加することによってその前後のRNA二次構造の変化を同定する手法を確立することを目指します.これによって,未知RNAの機能推定を行うと同時に,創薬ターゲットとなりうるRNAのスクリーニング手法を開発します.